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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)5473号 判決

原告 国

訴訟代理人 松原直幹 外三名

被告 山根芳雄 外六名

主文

被告らは、原告に対し、各自金一〇七万四八五八円及びこれに対する昭和三四年一二月一五日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二主張

一  原告の請求原因

(1)  訴外山根運輸株式会社は、昭和三三年一二月一一日現在において、別表記載のとおり合計一〇七万四八五八円の国税を滞納していた。

(2)  被告らは、いずれも右訴外会社の設立発起人であるところ同二七年七月四日頃、会社の設立に際して発行する株式の総数二、〇〇〇株(全部額面株式、一株の金額一、〇〇〇円、一株の発行価額一、〇〇〇円)につき、その発行価額二〇〇万円の払込手続を了したものとして、同月八日設立登記手続を経由し、訴外会社を設立した。

(3)  しかしながら、右払込は、次の理由により無効である。すなわち、被告らは、同二七年七月四日訴外大阪新菱自動車株式会社から、金二〇〇万円の短期融資を受け、これを払込金として払込取扱銀行に預託したが、同月八日設立登記を了すると、翌九日直ちにその全額の払戻を受けてこれを借入先に返済した。このような払込は、いわゆる「見せ金」による仮装の払込であつて、形式上は株式の払込であつても、株式払込としての効力を有しない。

(4)  よつて、訴外会社は今なお株式の払込が全額未済であるから、被告らは商法一九二条二項により、会社に対し連帯して右二〇〇万円を支払うべき義務がある。

(5)  原告(所管庁西税務署長)は、同三三年一二月一一日(1) 規載の滞納国税の滞納処分として、国税徴収法二三条の一の記定に基き前項の債権を差押え、同日これを各被告に通知し、その通知はその頃各被告に到達した。

(6)  よつて、原告は被告ら各自に対し、右差押債権のうち、滞納国税相当額一〇七万四八五八円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である同三四年一二月一五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告らの答弁

原告の請求原因のうち、(1) (2) の全部並びに(5) のうち原告主張の差押の通知がその主張の頃被告らに送達されたとの点は認めるが、その余の事実はすべて否認する。

第三証拠〈省略〉

理由

原告の請求原因(1) 、(2) は当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第一、三号証、証人川浦正雄の証言によつて成立を認める甲第二、四号証に、証人中村佐多志、川浦正雄の各証言及び被告山根芳雄本人尋問の結果を合わせ考えれば、被告山根芳雄は、前記訴外山根運輸株式会社の設立に際して発行する株式総数二、〇〇〇株について株金全額二〇〇万円の払込の形式を整えるため、会社設立後にその資本とする意思などなしに昭和二七年七月四日訴外大阪新菱自動車株式会社(当時の商号、みずしま自動車販売株式会社)から金二〇〇万円を借受け、これを株金として払込取扱銀行に払込み、同月八日設立登記手続が終了するや翌九日直ちにその全額の払戻を受けて右借入先の訴外会社に返済した事実を認めることができる他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右認定の事実に徴すると、右払込はいわゆる「見せ金」による仮装の払込というべきであつて、形式的に払込金と称しても実質的には払込の効力はないものと解するのが相当である。

そうすると、設立発起人である被告らは、商法一九二条二項により、訴外山根運輸株式会社に対し、連帯して株金全額二〇〇万円を支払うべき義務がある。

そして、原告が、右訴外会社の被告らに対する右債権を同三三年一二月一一日差押え、その旨被告らに通知したことは、被告らも認めて争わないから、被告ら各自に対し、右差押債権のうち、本件滞納国税相当額一〇七万四八五八円及びこれに対する本件訴状が被告ら全員に送達を完了した日の翌日であることが記録上明白な昭和三四年一二月一五日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

よつて、原告の請求を認容し、民訴八九条九三条一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中川敏男)

別表〈省略〉

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